二月の終わりから三月にかけて、暖かい日と冷え込む日が交互にやってくると、私たちは決まり文句のように「三寒四温ですね」と口にします。
春が近づく兆しを表す言葉として、すっかり定着しています。
「三寒四温」は春ではない?
「三寒四温」は早春の気候にぴったり合った言葉のように感じられますが、もともとは冬の気候を指すものでした。
日本の冬を考えるとピンときませんが、それもそのはずで、これは中国北部や朝鮮半島の冬の気候からうまれた言葉なのです。
大陸の内陸部では、シベリア高気圧の勢力が周期的に強まったり弱まったりすることで、寒い日が三日ほど続いたあと、やや気温が緩む日が四日ほど続く、というリズムが見られます。
これを表現したのが「三寒四温」です。
つまり本来は“冬の現象”を指す言葉でした。
大正時代の尋常小学校(今の小学校)の国語の教科書では、京城(現在の大韓民国ソウル)に住む友人からの手紙という設定の文章の中で、現地の冬の様子をあらわす言葉として「三寒四温」が登場するそうです。
他国の冬を指す言葉が、日本ではいつしか春先の気候を表す語として広まりました。
言葉は気候とともに移ろい、土地に合わせて意味を変えていくのですね。
その変化自体もまた、興味深い現象です。
(参考:辞書・事典検索サイト | ジャパンナレッジ https://japanknowledge.com/articles/blognihongo/entry.html?entryid=417)
日本の春の三寒四温
では、日本の晩冬から早春にかけて、なぜ寒暖が数日単位で変化するのでしょうか。
この時期の日本付近では、冬型の気圧配置が次第に弱まり、代わって移動性高気圧と低気圧が西から東へと交互に通過するようになります。
気象庁が示す天気図を見ると、数日おきに高気圧と低気圧が列をなして進んでいく様子が確認できます。
高気圧に覆われると、晴れて日射が増え、日中の気温が上がります。
とくに春先は太陽高度が徐々に高くなり、放射による昇温効果が大きくなっていきます。
一方、低気圧が通過すると南から暖かく湿った空気が流れ込むこともあれば、通過後には北から冷たい空気が入り込むこともあります。
こうして数日の周期で気温が上下するのです。
日本列島は中緯度の偏西風帯に位置しており、上空の気流の蛇行や寒気の南下の影響を受けやすい地域でもあります。
そのため、春への移行は一直線ではなく、寒気と暖気がせめぎ合いながら進んでいきます。
三寒四温は、そうした大気のダイナミックな動きの表れと言えるでしょう。
寒暖差にご用心
季節の変わり目の気温の変化は、私たちの体にも少なからず影響を与えます。
気温差が大きいと、自律神経は体温調節のために頻繁に働くことになり、疲労感を覚えることがあります。
いわゆる「寒暖差疲労」と呼ばれる状態です。
一方で、植物にとっては、この寒暖の繰り返しが重要な役割を果たします。
冬のあいだに一定期間の低温にさらされて休眠していた植物は、その後の気温上昇によって芽吹きや開花の準備を始めます。
三寒四温の時期にはちょうど梅がほころんできますし、水仙や沈丁花などもすがすがしい香りを運んでくれるでしょう。
そして、これから次第に暖かい日が増えていくと桜の花芽もふくらんできます。
寒さがぶり返す日には、季節が後戻りしたように思えます。
しかし天気図を眺めれば、大気の流れは確実に冬型から春型へと移り変わっていますし、目の前の寒さの裏側で、季節は着実に歩みを進めているのです。
季節が行ったり来たりで疲れやすい時期ではありますが、「四温」の暖かい日には、散歩をしてみませんか。
日差しは春めいて、風はまだちょっと冷たいとはいえ花の香りを運んできます。
本格的な春までもう少し。
年度末が近づく忙しい時期でもありますから、寒暖差に負けないように体調を整えつつ、リラックスして過ごしたいものですね。
